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禍の中で支えあうコミュニティー

コロナ禍の現在、世界中の個人経営レストランは、絶滅に瀕するような三つの危機に直面している、とある観測者達は言う。その三つとは、「健康の危機」「短期的な経済的損失の危機」「長期的なソーシャルディスタンスの確保」である。

では、今、西荻窪の飲食店コミュニティーは?というと、しっかりと生存し続けているようだ。国、東京都からの資金援助が助けの一部となってはいるが、レストラン経営者達の知恵と、そして地元地域のコミュニテーが生き残りの大きな要因となっていると思われる。

 

2020年の春。対岸の火事だと思われていた新型コロナウィルスはあっという間に世界中に広がった。その火は日本にも飛び火し、燃え広がり、四月七日に東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の関東四都道府県と、大阪府、兵庫県、福岡県、全部で七都道府県に緊急事態宣言が発令された。

ウイルスの感染を防ぐため、三つの密、「三密」を避けるよう呼びかけがなされた。居酒屋を含む飲食店、料理店、喫茶店など、宅配・テークアウトサービスを含む食事提供施設も、原則として営業は継続するが営業時間の短縮が要請された。夕方は五時から八時までの営業、酒類の提供は夜七時まで。ただし、宅配・テークアウトサービスは、営業時間の短縮を要請しない。というものだった。

東京都新型コロナウイルス感染症対策と 都民生活や経済を支え る 東 京 都 緊 急 対 策 ( 第 四 弾 ) 令和二年四月十五日 東 京 都 30pより)

 

西荻は駅前から多くの飲食店街が四方八方に広がる町だ。西荻町学ではこれまでに五十以上の飲食店にインタビューをしてきた。その店等はこの状況下でどう動いているのだろうか。

わたしたちはまず、西荻の町全体の様子を見続けている「西荻案内所」の奥秋夫妻にオンラインでインタビューさせていただいた。緊急事態宣言が出てから二週間ほど経った四月二十四日夜、奥秋圭さん、奥秋亜矢さんに町の様子をうかがった。

 

まずは、緊急事態宣言が出る前と後での変化はどうだったのか。

「やっぱりお店の人たちはどう対応していいかわからなくて不安がっている」

「テイクアウトだけでがんばろうとすると、心細くてお店に頼ってくる人たち、店主たちと関係ができている人、で、やっぱりフリーの人もいて、立ち寄りたいっていう人たちを拒絶しちゃうことになるのも心苦しい。どうしたらいいのか正直分からないって言ってたのが印象的でしたね。」

三密を避けるため、テイクアウトに切り替えたお店がかなり多いとのこと。

しかし、この変化は思いがけない新たな問題を引き起こした。

「先週、先々週(四月六日の週と四月十三日の週)はちょっとしたフェスみたいになっちゃって。逆にテイクアウトで盛り上がりが起きていて、人出もむしろ、普段の土日より多かった。有名店のテイクアウトに行列しちゃうんですよ。テイクアウトしないでしょ、っていう、ちょっと敷居が高いお店がどんどんテイクアウトを始めて。もう苦しいんだと思うんです。やれることをやるしかないっていうのでみなさん決断してテイクアウトをなさっている。」

「実際。土日に関していうと。複雑ですね…。一時期、今から半月くらい前はぼくらもハッシュタグ『#西荻窪お持ち帰りグルメ』を使って、西荻の飲食店のテイクアウトを楽しもう!くらいのつもりでやりましょう、ってやってたけど、今週(四月二十日の週)はもうやめましょう、みたいな気分になっていたりして。いろいろ聞いているから。『#西荻窪お持ち帰りグルメ』は、インスタだと三週間くらいで三千件くらい投稿があった。」

とのことだった。

しかし、混雑による「密」の心配はあるものの、「テイクアウトへの切り替え」の成功は経営者にとっては自信となったようだ。

「でも、こんな風になっても稼げる、人を集められるっていうのは自信になる。人の不安の大部分のところはやっぱりお金のことだと思います。だから、どうやって前向きに稼いでいけるのかというところですね。」

テイクアウトスタートとともに、ネットを使って認知を高めようとする飲食店も増えた。そして、ネットにより、より広く認知される飲食店も増えた。

「何週間かでTwitterを始めるお店がすごく増えて。十五店くらいかな。(Twitterで発信?)そう。僕らのTwitterのフォロワーもこの半月くらいで五百人以上増えてるんですよ。六千九百だったのが今七千四百くらいになってます。」

 

テイクアウトに切り替えたことを機に、今まではあまり活用してこなかったSNSを使い、これまでの常連客に加え、新たなお客を取り込む。多くの店がこの状況下をなんとか生き抜こうとしている様子がうかがえる。

しかし一方で、現在きつい状況にあるのはどのような店なのだろうか。

「開店したてのところはやっぱりしんどいと思う。もともと常連が応援してくれるところはいいんですが、お客さんがいないような状況でやってるところは厳しいし、あと、二号店出したばかりのところや、やっぱりスタッフをたくさん抱えてる、箱代(家賃)、そこに責任持たないといけない経営者の方々はほんとにもう駆けずり回って、各種給付の事を調べたり、家賃の交渉なんかもみんなしてると思いますね。とにかく、給付金のことについて二転三転したり、アナウンスがどうしても十分じゃない。申請書も書くのが簡単ではないようだし、電話しても、もうつながらないそうで。融資の相談なんかに行ったら、もうそれこそ行列らしいです。そういう情報がTwitterで飛び交ってますよね。経営者同士、助け合ってっていう意識があるのかもしれない。」

 

新しく立ち上げた店と言えば、三月に開店し、西荻町学でも最も近々にインタビューをさせていただいた「すし大泉」がある。わたしたちは大泉法幸さん、大泉峰子さんご夫妻に連絡を取ってみることにした。そして、オンラインでのインタビューをお願いできた。

「すし大泉」は、四月中旬から六月の下旬までテイクアウトのみの営業を行っていた。メニューは、通常店では出さない稲荷寿司と助六(愛称:助六助)、かんぴょう巻きのセット、出し巻きやソフトシェルクラブロール、太巻き、ばらちらしなど、テイクアウトに向くと法幸さんが判断したものだけだ。最初の頃、法幸さんはテイクアウトには乗り気ではなかったそうだ。しかし、

「休むのは簡単だったけど、オープンしてすぐ休んでるとずいぶん余裕があるように見えて、この店はやっぱり敷居が高い高級店だ、ってなっちゃうと…。周りが休んでいるときに一生懸命やっているお店の方が好感度も上がるし。お客さんといろんなお話をして、通常営業になったら来てください、となって、やってよかったと思ってます。子どもたちがたくさん来てくれて、助六五百円(子どもは大人の半額)だし。子どもは学校にいけないので、来たらお菓子あげたりして。いろんな会話も増えるんでよかった。西荻は人がたくさんいるので、お客様が友達にプレゼントしてくれて、そのプレゼントされたお友達がまた来てくれて…と。小さなことからコツコツとやってくしかないかなぁと。」

と語ってくれた。

 

コロナ禍に見舞われた当初、まさにオープンしたてだった「すし大泉」。もちろん常連客はまだいない。ところがテイクアウトに踏み切ったことで、新しいお客、そして西荻の飲食店経営者たちとのつながりができていったそうだ。

「すし大泉」では、法幸さんが作るもの以外に同じビルの店のテイクアウト商品、駅前のお好み焼き屋の焼きそばも販売している。

「今、朝市もないので、子どもたちが焼きそばなど食べたいと思うので、時次郎さん(お好み焼き屋)の。」

とのこと。

店の入り口で「いらっしゃいませー」と声をかけ、子どもがやって来たらネタ箱に入れたお菓子を差し出す。そこでちょっとほっとしてもらい、お店に入ってもらっているそうだ。

「私たちが元気でやっていないと、暗くなっちゃうから。中見るだけでもいいですよ、と言って入ってもらってる。カウンターに並べて売ってます。寿司屋ではなくテイクアウト屋さんになっています。」

「リピーターの方も増えていて、みなさんお店の中が見えて、扉オープンにしてやっているので入りやすくなったと。『この店は予約しないと入れない、一見さんしか入れない』という誤解がなくなりました。」

そうだ。

 

しかし、テイクアウトは多忙を極めるうえ、薄利多売なようだ。

「テイクアウトは忙しい。通常営業の時より。」

と話す大泉ご夫妻。メインの稲荷寿司と助六とかんぴょう巻きのセットで千円。テイクアウトの値段設定は千円(子どもは半額なので五百円)から、予約制のばらちらしでも四千円。もちろん、酒類はなし。その上、テイクアウトには容器、割りばし、レジ袋などのコストがかかる。メインの稲荷寿司と助六・かんぴょう巻きのセットは六十~七十個出る日も多いそうだが、数が出ても利益としてはなかなかシビアなようだ。

 

五月二十五日、緊急事態宣言は解除された。席数を減らすなどの制限はあるものの通常営業にもどした店もあったが、「すし大泉」は六月三週目までテイクアウトのみの営業形態をとった。その後、六月末まで休業し、七月からようやく通常営業を再開する予定だそうだ。

 

インタビューをさせたいただいた時点では、政府の補助金は申請ができなかったとのこと。

「補助金は去年の十二月にオープンしていないので、申請できない。縛りが三か月以上で、二か月だと分からないんで申請できないんです。去年より比べて落ちたわけではない、去年がないので、対象外。なので店をやるしかないんです。」

 

そんな厳しい現実の中、毎日必死で働き詰めの緊張の日々を送っていながらも、増え続けるお客たちから受けるサポートと地元飲食店と築き上げた新たな絆から、ご夫妻はたくさんの希望を手にした、といった印象だった。

 

では、西荻の老舗的なレストランであり、緊急事態宣言を受け一旦休業に入る直前まで通常通りに常連客がやってきていた「ビストロさて」のオーナー、真中直樹さんにお話をうかがった。

 

「ビストロさて」は四月四日土曜日から店を休業。テイクアウトのみの販売を十三日月曜日からスタート。十二時から二時の間にお店に来てもらい渡す。事前にメニューをInstagramと店のFacebookにアップし、InstagramのDMとFacebookのメッセンジャーなどで予約を受ける。というやり方だ。

テイクアウトはどういった状況なのだろうか。

「一人で作っているのでそんなにたくさんは出せないので、それに、飲みのもが出ないので量を作らないといけない。普段より労力がかかります。一日にお弁当が四十食ぐらい出る。デザートまで付いてるお弁当。お客さんにとってはすごくいいらしい。普段よりは割安にしているので、あまり利益が残らないね。」

「予約で手一杯です。お弁当のほかに、温野菜サラダ、サンドイッチも作っている。サンドイッチは毎日はとても不可能なので、週に一回か二回。サンドイッチもすごく人気がある。サンドイッチは予約制じゃないけどすぐなくなっちゃう。サンドイッチは二十人分くらい。お弁当四十にサンドイッチ二十が全部出る。温野菜が八つくらい出るね。あとはドレッシング、夜の単品メニューのほほ肉の赤ワイン煮やタンシチューも予約で出ます。その場ではできないので予約。これ以上はとてもできない。ヘトヘト。」

 

やはり、大泉さんご夫婦と同じように多忙を極めているご様子だった。

「テイクアウトの前より仕事量は増えたが、利益が少ない。原価が上がってるからね。テイクアウトのケースは東京都の補助が出るみたい(飲食業者の業態転換支援)なので、申請するつもりです。」

補助金や給付金についてもうかがった。

「申請がめんどくさいんだよね。今ようやく協力金(持続化給付金 経済産業省・東京都感染拡大防止協力金 東京都)の申請を明日しようと思ってる。申請書をようやくこれから書くところ。飲食店の場合は時短していればいいから。その二つをする予定。」

とのことだった。

「お酒のテイクアウト(期限付き酒類小売業免許)はしない。ずっと安くしないと出ないからね。店で出すような値段だと出ないから。それだったら酒屋に行けばいい。ワインも表に並べたけど、何の反応もない。ちっちゃな瓶で気軽に出せるものがあればいいけど。」

補助金で損失は賄えるかとうかがうと、

「一ヶ月ですべてが解決するならそれは助かるけど、これが続いたらそれじゃ足りないですよ。東京都は第二弾も考えていますよ(東京都感染拡大防止協力金の延長)。アルバイトは一人、今も手伝ってもらっている。二人では無理なので。アルバイト入れて三人でやっています。」

 

緊急事態宣言解除後のテイクアウトの予定についてうかがった。

「少しはやってもいいけど…。コロナが終息したとしても、やっぱりお客様同士の距離とかも考えないといけないから(店いっぱいにお客を入れることはできない)。店の中は、これまでのランチではいっぱいに入っていただいていたけど、店の中に入っていただくお客さんの数を減らさないといけない。どこのお店も同じだと思う。(値段をあげる?)どうでしょうね…。終息して、みんなが抗体を持てばいいんですけど。とりあえずは営業の仕方が変わるでしょう。」

狭い店内で、お客同士の距離をとり、飲食を提供し、そこで経営を成り立たせるという、飲食店にとって難しい未来が垣間見える。

ところで、「ビストロさて」でテイクアウトをするのはほぼ常連客のようだが、中にはそうではないお客もいる。

「来ているお客さんは今までの常連さんが三分の二ぐらい?今までうちは小学生以下はお断りしてたけど、テイクアウトだからちっちゃな子を連れて買う家族が増えて。来たいけど来れなかった人が増えて。さてが隣にあった方がいいって言う人がいるくらい。子どもがそう言ったらしい。」

と、シェフは笑顔で話す。

 

「ビストロさて」は今年2020年十二月に閉店の予定だ。最後にそれについてうかがった。

「それもどうするか考えている。今どうするかの結論は出ていない。コロナ自体は間違いなく続きますよね。ほんとに鎮静化するまではまだまだ時間がかかりそう。」

「今は毎日が精いっぱいで何も考えられない。」

とのことだった。

 

しかし、画面の向こうのシェフからは、お客に料理を喜んでもらえている実感と自信が伝わってきた。

 

話をうかがっていると、西荻の飲食店ではとにかくテイクアウトが盛んにおこなわれていた。テイクアウトの盛り上がりの牽引役の一つとして、「西荻Takeouts!(2020年六月現在のグループ登録者数約二千二百人 )」というFacebookのページが立ち上がっている。こちらの立ち上げにかかわった東義一さんにオンラインでお話をうかがった。

 

「西荻Takeouts!のページを作ったのは渡辺さん(渡辺良子さん カントニクスオーナー)。テイクアウトのページとして始めた。渡辺さんが、知り合いがテイクアウトのページを立ち上げて参加したんだけど、エリアに制限がない。日本全国どこでもかまわないものだったので、西荻にページを作ろうとしたんです。すでに「西荻の魅力をもっと知りたい倶楽部 (約四千五百人)」と「西荻ファン  (約千八百人)」二つがあって、この二つにも飲食店を助けるための活動をしようというメッセージを送ったけど、あまり宣伝まがいのことはしてほしくないと言われたんです。むしろ、宣伝ウエルカムのページを作りたかったので、ないから自分で作ろうと作り始めたんです。」

「四月一日に渡辺さんがFacebookのページで作ったんです。でも、ページだと渡辺さんが発信するか、許可して発信してもらうしかできないのであまり意味がなかった。それをわたしがたまたまタイムラインで見て、エンジニアなので手伝おうか?という話になって、四月二日にグループを作ったんです。」

 

まずは、東さんが知り合いやFacebookのつながりに声をかけるところからスタートした。

「西荻窪町会という、三丁目、四丁目を指す町内会(昔はここだけが西荻窪だった)のそこの元町会長が知り合いだったので、彼女に声をかけたんです。彼女が顔が広いので一気に広がりました。最初の三日間で五百まで…お店と住んでいる人…に広がりました。店の宣伝を困ると言っていた二つのページにもまきました。こういうグループを作ったのでテイクアウト支援をしたい人はどうぞ、って。これでまた広がった。」

しかし、設立者の渡辺さんの意図としては飲食店に積極的に投稿してほしかったのだが、飲食店の人が遠慮しているのか、なかなか投稿がされない。渡辺さんが、どうしてもっとアピールしないんだろう、と言いはじめたのを受けて、東さんはいろいろと考えたそうだ。そして、「そもそもFacebookを情報の発信源にしている飲食店が少ないんじゃないだろうか?それよりも、TwitterやInstagramを発信源にしている人が多いんじゃないだろうか?」と思いはじめ、TwitterとInstagramで「西荻Takeouts!」のアカウントを作った。このタイミングで西荻案内所(奥秋さんご夫妻運営)がその活動をTwitterで流しはじめてくれた。そのころ「#西荻窪お持ち帰りグルメ」 というハッシュタグが一番付けられていたので、そのハッシュタグと一緒に 「#西荻Takeouts! 」のハッシュタグを付けるようにし、「こんなFacebookのページありますよ」という発信をまき始めた。すると、それにお店の人が気付き始め、投稿が増えるスピードが上がったそうだ。

そして、盛り上がりの決定打となったのが地図だ。

「Facebookの中で自然発生的に『地図があった方が便利なんじゃないか』という話が出てきてFacebook上で議論して、GoogleMymap っていう提案があったりしたんだけど、最後にQoodish というSNS地図を使うことにした( https://qoodish.com/maps/267  )。おもしろそうなのでそう決まった。グループの中の1人がボランティアで、それまでグループに上がっていたお店をマップに上げたら、それに続いてみんながペタペタ貼り始めた。それを西荻案内所の奥秋さんがTwitterに流したらものすごくバズってしまい、お祭り状態になってしまって。」

この頃からネガティブな声も上がり始めたそうだ。世間でも「自粛警察」などと呼ばれる人々が話題に上がっていたころだ。批判は主にテイクアウトをする飲食店の前の人混みに対してのものだった。

「並んだりテイクアウトするのが密になってしまっている。人と人とが五十センチも離れていないような状況になり、それを目撃して写真にとってネガティブな投稿をする人が出てきてしまったんです。並んでいる人の中には明らかに西荻の外から来たんじゃないかって人達が増えちゃった。渡辺さんとしては西荻の住民で西荻の飲食店を応援しようという趣旨だったんだけど、Twitterの情報を見た西荻外の人も集まってしまったんでしょうね。『西荻Takeouts!』のメンバーの中ではネガティブなのはそんなになかったけど、ネガティブな投稿が増えて荒れていたところもあったようですね。四月の第二週くらい。四月一日に始めて三日間で五百人に増えて、その次の週の中くらいですね。」

その後、渡辺さんと東さんとで何とかしなければということになり、TwitterとInstagramで「西荻の人のためのテイクアウトだから」という旨を発信。「テイクアウトは事前予約などで行列にならないようにしましょうね」「みんなで頑張って工夫しましょうね」と発信した。不定期で何回か呼びかけたそうだ。密になってしまった金曜日に、渡辺さんがポスターを作製。これを店に貼って構いませんよ、とも発信した。

 

「これは西荻の活動ですよ、断密しましょう」といった内容の定型文を作って、地図と案内とセットにして不定期に投稿し続けた。グループに入る前にも、注意喚起を読んでもらうようにした。そして、「事前に電話して予約して行こう」などのマナーができてきたそうだ。

 

そして今、緊急事態宣言は解除された。グループの今後についてうかがった。

「こういう活動は始めるのはいいけど、どう着地させようかと今考えていて、渡辺さんに相談に行こうと思ってます。でも、飲食店が宣伝しているグループはないから、テイクアウトだけではなくて今後飲食店の宣伝や支援をやっていけたらいいなと思っているんで。いきなり元通りにはできないし、飲食店もお客を半分しか入れられないし。テイクアウトをやむを得なく始めた店も多いけど、いきなりやめるのではなく少しずつやめていくことになるので、積極的に飲食店を支援する動きは今後も続けていきましょうと思っています。西荻の人は外食が好きだから。」

 

誰もが大変な状況のコロナ禍の中、この地元住民たちによる飲食店支援の原動力は、地元西荻飲食店への愛と忠義の心から出ているようだ。東さんご自身ももちろん、

「飲食するのが好きだから。西荻に住んでるので、西荻のいろんな飲み屋さんには行っているし、家族でも行っているし。最初はカントニクスが好きだから助けようと思ったんです。わたしが贔屓にしている飲食店がコロナでつぶれたら嫌だし。渡辺さんが自分の店の為だけではなく他の店の事も考えてがんばっているんだったら、助けようと思ったんです。」

と語ってくれた。

 

テイクアウトができない店もある。最後に休業を余儀なくされた店についてレポートする。そんな店の一つが柳小路にある「小料理 こぎく」だ。

こぎく」は緊急事態宣言の前から休業に入り、宣言解除された五月末まで営業を自粛した。そして、二か月の休業後、六月一日から店を開いた。完全予約制での営業再スタートだ。再開当日は常連客達がお祝いにやって来たそうだ。「こぎく」のママ、山井奈美さんからこんなラインのメッセージが届いた。

「毎日ラッキーなことを探して数えています。不安なことを考えていると沈んでしまうので、楽しいことを考えて生きていこうと思います。今回の事で、多くのお客様のお世話になりました。感謝の気持ちでいっぱいです。それだけでも頑張れます!」

 

西荻窪は、飲食店と住民、飲食店とその常連客達、お互いに助け合いながらコロナ禍を乗り切ろうとしているようだ。

 

コロナウイルスの影響で、大手飲食チェーンが全国にある支店を閉じた。飲食業界での労働人口は大きく削減され、コロナ禍が飲食店に与える脅威を明らかにしたと言えよう。その一方で、西荻では閉店した店は少なく、逆に 新規オープンし新しいお客を獲得した店もあるほどだ。心無いことを言うと思われるかもしれないが、チェーン店を助けるために地域住民が動くとは想像しがたい。西荻で見られる人々の動き。地元住民たちが、それぞれが寄るそれぞれのたまり場を愛し、彼らはその気持を、それぞれのたまり場から地域全体の飲食店コミュニティーへと広げる。西荻におけるこの社会的な動きは、もしかすると個人経営店の忍耐力の源を知る鍵となるのかもしれない。

 

(ファーラー・ジェームス、木村史子、ファーラー・セージ、7月3日2020年)

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