餅職人募集中!(これはそうたやすい仕事ではない!)
西荻の南商店街にある餅屋は、西荻の住民ならみなが知っている。越後鶴屋は、テレビの町散歩番組でもたびたび紹介されているので、西荻の案内マップ片手にお店の前に行列する西荻観光客が週末になると常に見られる。近頃、西荻一番の人気観光スポットの一つになっているかもしれない。
皆並んで買うのは名物の苺大福だ。しかし、道行く人を惹きつけるのはガラス越しによく見える餅職人だろう。 今、餅職人としてお客さんたちを惹きつけているのは、毎日500〜800個以上の大福を作る加藤さんだ。きりりと真剣な顔で手早く大福を作る加藤さんは、ここで15年間働いている。実は、もとプログラマーだったのだが、「脱サラ」して餅職人になったのだ。「なにをやろうかなぁと探しているときに、実家が日本蕎麦屋だったので飲食関係を、と思った。親族が和菓子とお蕎麦屋が多かった。親が蕎麦屋で、弟も蕎麦屋だったので、じゃぁわたしは和菓子…と思って探していて、ここに行きついた。」
餅職人の加藤さんは、己に厳しい人だ。そして、和菓子に対して熱い。朝6時半から夜まで休む暇がない。 「夕方4時に餅はなくなるが、その後掃除して次の日の仕込みして。もち米、小豆、粟、黒豆だとかなんだとか…。月曜日も定休日だけど、いろいろやっている。」
お店の親方は、餅職人の浦野さん。 ただ、最近は腰痛がひどいため店には出ていない。現在副店長を勤める丸山さんによると、浦野さんは35年前、東京のデパートの地下の餅屋で、餅職人としての人生をスタートしたそうだ。新潟出身の浦野さんは、もともと、新潟の物産、干物などの海産物をデパートで扱っていた。その当時、ラーメンの麺をガラス越しに作っているところを見せるのが流行っていた。このやり方は餅でもできるのではないかと、餅をはじめたそうだ。
すべてガラス越しに常にお客様から見られるので、働くものも緊張感を持って働ける。衛生面も見られる。逆にそれがお客さんの信頼につながっている。道を通っている人も見る。浦野さんは、「餅にこだわって餅をはじめたというよりも、人に見せる商売というのが当時はやっていたのでたまたま餅を選んでやった。」 そうだ。
デパートの中で餅の作り方を学んでから、自分の店を出す場所を探した。 丸山さんはこう言った。「杉並区には舌が肥えている人が多いからここに店を出したそうだ。いいものを出せば買ってくれるだろうと。そして、確かにそうだった。」
西荻の駅の向こうで12年、ここに移転してから15年、合計27年間、西荻で店を営んでいる。ほぼ常に店頭に出している商品は苺大福、桜餅、道明寺、どら焼き、みたらし団子。店舗はここだけ。丸山さんは、「広げるつもりはない。店の大きさも今がちょうどいい。もしやるとしたら、別ブランドをたてて、ネット販売とかだろう。」と言った。
丸山さんは 餅の作り方も紹介してくれた。先ず、もち米だ。もち米だけでも20近くブランドがある。ここは、新潟の黄金餅(こがねもち)という銘柄を使っている。黄金餅(こがねもち)を「小金持ち(こがねもち)」にかけて、大福は「開運大福」という名前にした。お餅は縁起物、お正月、お祭りに食べるもの、家庭円満、みんなが幸せになれるというものなので、基本、餅は丸い餅なのだそうだ。
丸山さんによると、餅の作り方は、どこもだいたい一緒。だが、いろいろ細かいところで店ならではのこだわりがある。「ここでは、糠(ぬか)を早くとるようにしている。水につけると、すぐに糠の匂いを米が吸ってしまうので、素早くといですぐに水を捨てる。もち米は割れやすいので、3回以上はとげない。蒸すときにひび割れて風味がなくなるので、大急ぎで2回とぐ。大量に水を使って、素早くがーっととぐ。水道水を使っているが、今はとにかくものすごく冷たいので、みんな手があかぎれになる。お湯はつかわない。あったかい水を使うと、米が膨らんで割れてしまい、風味がなくなる。」
このような知識は、やっていく中で試行錯誤をしながら見つけていったものだそうだ。加藤さんはこう説明してくれた。「季節とか、お米とか、蒸し時間とかで毎日同じにはできない。寒い日もあれば、あったかい日もあるので。たとえば、あったかいと餅が柔らかくなってしまう。でも、それを蒸し時間とかつくときの水の打ち方で調節する。蒸したての米が一番コシがあるので、朝蒸したコメと、蒸したての米をブレンドしたりして同じ品質のものができるようにする。常に同じ品質のものを提供するのがプロなので、日によっていろいろ調節する。」
二つ目に大切なのは小豆だ。京都から西はこしあん文化だが、関東では圧倒的に粒あんだそうだ。ここの売り上げの9割が粒あん。でも、中には小豆の皮のざらみが嫌いな人もいるので、こしあんも作っている。
小豆は高級な大納言小豆を使用。 商品の値段は安く抑えているが、材料はいいものを仕入れて使っている。安易な値上げをしない。丸山さんによると、「行列店ではあるが、実はけっこう薄利でやっている。儲けよりも、一つの文化としてお餅を食べる文化を定着させていきたい。文化に根付いた商品であるということを浸透させたい。なので、庶民的な値段にしている。」だそうだ。
お店に常駐するのは4人。 親方の浦野さんは今体調が悪いので、餅職人は加藤さん1人。ほかのスタッフは仕込みをする。米を洗ったり、蒸したり、つく、桜餅とかみたらし団子などを作る。でも、大福は餅職人が作る。大福は手の微妙な加減で大福の皮を均等にするのが 難しいそうだ。これは浦野さんから伝授された技術だ。
「時間をかけて作るなら作れるが、商売として一分間に何個も…となるとむずかしい。」と、丸山さん。「例えば、1人の給料が20万とすれば、商品のクオリティーを守りながら、一日に苺大福を500~800個は売らなければならない。」
現在、もう一人の餅職人を探してる。経験いらない。「餅職人は今、日本ではほとんどいないので、餅職人を募集しても無理。昔はいたが、今は餅職人で食べていける人がほとんどいないので減ってしまった。若者のなり手もない。今いる餅職人だと50歳以上なので、そうなると、今雇うと体力的に難しい。なので、若い人を育てていくといった感じ。」
求む!心から餅文化を愛してくれる餅職人志望者!!
(ファーラー、木村、2月26日2016年)