個性派揃いの個人店が多くあることで有名な西荻窪は、飲食店経営を目指す起業家たちにとって人気なエリアである。しかし、自身のユニークな一品に興味を持ってもらうことは最後のハードルにすぎないだろう。その前に、場所を見つけ、メニューを作成し、価格を決め、マーケティングを行う必要がある。厳しい市場に立ち向かうためには、サポートしてくれる手助けがあると大きな違いを生み出すことがある。
最近では、シェアスペース方式での飲食店経営が注目を集めている。これは、リスクを減らし、サポートを受けながら、少ない負担で市場に出る方法として利用されている。こうしたシェアスペースは独立を目指す人にとっての第一歩となり、他の仕事と両立しながら好きなことを行う長期的な手段にもなる。さらに、これらのスペースの管理者にとっては、一日中さまざまな用途で空間を使い、集客が少ない場所でも新しい収入を得る方法になる。
つまりシェアスペースは、ビジネスのリスクを分散させるだけでなく、知識や経験、ネットワークを共有することで、経済的・社会的な価値を生み出すことにつながる。利益を追求するよりも、コミュニティを大事にする人が多く、起業家精神と社会的なビジネスの意義が融合したものだ。
ていねいに―始まり
「暮らしのいろいろ ていねいに、」(以下、「ていねいに、」...敬称略)は西荻窪駅から五百五十メートル、歴史ある賑やかな神明通り商店街の一角に位置し、「食べる」「住む」「安らぐ」「学ぶ」の四つの事業を運営している。十一年前にオーナーの福田倫和さんによって開かれ、地元住民にほっと一息できるような空間を提供している。当初は、鍼灸師として働いていた福田さんが独立する場所として始まった。
「スタートしたのが2013年なんで、十一年前なんですけど。」と、話し始める福田さん。
「もともと普通にサラリーマンしてて。それを辞めて、鍼灸学校に通ったんですね。東洋医学を勉強したくて。東洋医学って針とか漢方薬は有名ですけど、一番基本になるのは、『自分でできることをまずやる。』例えば食事とか運動とか、心の持ち方とか。それをやるのが一番基本。」
福田さんは東洋医学を企業勤めの代わりとなるキャリアパスとして考えた。
「卒業してサラリーマンをしてて、普通にメーカーの営業してたんです、電子部品メーカーの営業してて。」
「でもこれを一生やるのも違うかなと思って、ちょっと何かこう深い方向に行きたいなと思って、いろいろ考えたんですよ。だから、例えばお坊さんになるとか、それこそ西洋医学のお医者さんになるとか、心理学とか哲学とかいろいろ考えていたんですよ。実際、会社辞める前に一週間会社を休んで京都のお寺で修行したことがあるんですよ。修行体験ができるところがあって、外国の方とかも結構来てるんですね。そこに居ると座禅組んで、掃除して、ご飯食べてみたいな。でも、まあこれもちょっと違うなと思って。ちょっとお坊さんって隔離されてるじゃないですか、自分たちの世界じゃなくて。もうちょっと普通の人と接していたいなと思って。それでいろいろ考えた結果、東洋医学の考え方、例えば人間と自然は同一的なところがあるとか、体は全体で捉えようとかっていうのが面白いなと思ったんで、東洋医学勉強したいな、と。そうすると日本の場合、鍼灸学校に行くのが一番いいんですね。それで鍼灸学校に行ったんですね。」
そこには、サラリーマン時代の多忙さも影響していたようだ。
「結構忙しくて、深夜十二時とか一時まで残業してましたからね。。。当時は周りがね、他の先輩たちがしてるから普通に思ってたんですけど、まあ、今考えればやっぱあんまり良くなかったな。2000年ぐらいで、ITバブルで電子部品メーカーは結構忙しかったです。」
「その前(開業前)は僕、長野で働いてたんです。健康をテーマにした宿泊施設。(長野県安曇野市:穂高養生園)でも普通の旅館みたいにお酒が出てきたり食事がバーンと出てくるんじゃなくて、自分の健康を自分で守るっていうのをテーマにしているので、食事は玄米菜食で、ヨガのクラスとかもあったりして。その中でセラピーっていうのがあって、アロマセラピーとか。これはオプションで受けれるんですね。」
「ここ(穂高養生園)のコンセプトがすごいぴったりきたんですね。実はこのオーナーも鍼灸師なんです。彼もまあそういう考え方なんで、ちょっと話をしたら話が合ったので、じゃあ卒業したら働かせてくださいって言って。」
「鍼灸学校を卒業して六年間働いてたんです。その時三十代半ばぐらいだったんですけど、独立したいなと思って。こういうところに来る人って、もう疲れ果てて来る...どっちかっていうと、穂高養生園は休息に来るところなんですね。実際に癌とかね、アトピーとか、病気持ってる方もいますし。」
「なんかもうちょっと生活に近いとこで、ちょっとほっと一息できる場所があったらいいなと思って。やるんだったら、ここ(長野)はすごくいいとこなんですけど、やっぱもう山の中なんで来るのも大変。お金もかかるし、仕事も休んでこなきゃいけない。もうちょっと、例えば仕事帰りにちょっとほっとできて、おうちに帰る前に仕事の疲れを取れるような場所があったらいいな、と思って始めたんです。今疲れてる人が多いので。そういう人にちょっと気持ちの面でも、体の面でも休んでほしいなと思って始めたところです。」
「西荻は地元なんです。生まれ育ち、地元なんで。プラス西荻ってこういうの好きな人が多いんですよ。結構自然食とかね。ほびっと村とかもあったりするので、やっぱり西荻でやろうと思って始めたというのがきっかけですね。」
事業形態
現在、「ていねいに、」は「食べる(カフェ)」「住む(不動産仲介)」「安らぐ(セラピー)」「学ぶ(ワークショップ)」の四つの事業を行っているが、当初は「安らぐ」と「食べる」の二つを主軸に運営していたそうだ。
「最初に友人の女性の人と組んで、その人は料理がすごく上手だったんで。彼女は料理作って、僕がホールや会計やったり、最後掃除したり。プラス、この奥に治療室あるんですけど、そこで僕は針灸で、その彼女はタイマッサージとかリフレクソロジーできたんで。その治療もするみたいな感じ。」
「その子が名古屋の出身で、名古屋ってモーニング文化があるから朝ごはんやりたいって言って。あと、さっき言った通り、仕事帰りにホッとできる空間にしたかったんで、平日の夜ご飯もやってたんですね。だから、朝ごはんと夜ご飯と。プラス、シェア方式で自分たちがやってないときは、ほかのお店に入ってもらったんですね。だから平日の昼はコーヒー屋さんが入って、土日はそれぞれ週一のカフェが、入って最初はやってたんです。」
女性は結婚し、五、六年前に退職。その後、高知で独立して自身のお店を経営しているそうだ。現在、飲食業務は、すべてシェア方式で四組のお店にお任せしている。メンバーはすべて女性で、それぞれのコンセプトのもとで食を提供している。お店全体では、「安全で安心なものを」「ほっとできるお食事を」という二つのコンセプトを大事にしている。(ホームページ参照)
• 日、月曜日:hulot café は、ソースにこだわったパスタを含む西洋料理、またお菓子を中心に提供している。以前は、西荻の+ Café(たすカフェ)のシェアスペースを利用し営業をしていた。
• 火曜日: picnicは体に優しい食材を使用し、マフィンなどのおやつを提供している。
• 木、金曜日:おんしんは四つのお店の中で一番長く「ていねいに、」のシェアスペースとの繋がりがある。心温まる定食を提供しており、地域の常連客からたくさんのテイクアウトの注文を受けるお店だ。
• 土曜日:ごゆるりは若い層にファンを持つ、ワンプレートの食事が印象的なお店だ。オーナーはお店だけでなく、オンラインなどで料理も教えている。
シェア方式で飲食店を経営する人には、それぞれの異なる理由がある。
「人によるんですけど。一つは、これからお店やりたいって人いますよね。」
「あとは、自分の趣味を生かしたいじゃないですけど、やりたいことをやるっていう。だからどっちかっていうと女性の方が多いですよね。旦那さんが働いてて、生活はできると。プラスアルファって感じが多いですよね。そういう趣味を生かしたい、みたいな人もいますし。土曜日の子(ごゆるり)なんかは仕事辞めちゃって、料理研究家じゃないけど、いろいろやっていて。ネットでその人に合ったご飯を教えてあげたりとか、その人のおうちに行って、例えば1週間分のご飯を作ってあげたりとか、そういうのをしているんで。彼女はそれらの一環として、週に一回ここでお店をやってる。」
このシェア方式の仕組みについて、毎月決まった金額を場所代として、お店の方から受け取っているようだ。
「借りてくれる方は週に一日だと月いくらとか、まあ平日土日でちょっと違うんですけど、それをいただいてっていう感じです。売上の一部じゃなく、固定ですね。全体を大家さんに僕が借りてる。僕の場合、皆さんからもらうので、それで家賃と光熱費を賄って。あと治療と、不動産もやってるんです。それが僕のまあ収入になるみたいな感じです。」
四つの事業を運営する「ていねいに、」。一見、すべてが別々の事業のように思えるかもしれないが、お店に来れば、相乗的に四つの要素をそれぞれ体験することができる。
「まあ色々やってるっていうのはちょっとユニークだと思いますけどね。だからご飯食べに来た人が、例えばカフェに物件情報置いてあって、これ気になるっていうと、僕が奥から出てきて話ししたりとか。あとは、治療終わったという人がちょっとお茶したいって言ってお茶していってくれたりとか。」
インタビュー中、福田さんはお店の奥にある治療室を見せてくれた。お店の奥にあるドアを開けると現れる、もう一つの木造建築の空間。ここで鍼灸治療や不動産業が行われている。建物自体は六十年の歴史があり、以前は空間全体が住居として使われていたそうだ。二階には2Kの部屋が三部屋あり、現在も一部は住居として使われている。
実は福田さんは、「ていねいに、」の事業に加え、通りを挟んだところに位置する別のシェアスペース、「西荻のことカフェ(ことカフェ)」でも働いている。
どちらもシェアスペース事業を行う中、どのような違いがあるのか尋ねてみた。
「まあ、ことカフェのコンセプトも似てると思いますね。ことカフェの場合は一日でも借りれるようにしたんです。なんでかっていうと、やっぱりここ(ていねいに、)だと週一とか週二とか固定してもらわないと、ちょっと僕がちょっと管理しきれないんで。(ことカフェの場合)本当半年に一回の人とかもいるんですけど。そうやって幅を広げて。」
「お店やるの、結構大変なんですよ。お金もかかるし、会社も辞めなきゃいけないし。でも、サラリーマンだけっていうのもちょっと違うなっていう人がいた時、もしくは今子育ての主婦の方とかがいた時に、お店を開業するまでの間が全然ないんですよね。」
「『ていねいに、』って比較的上級というか、週一とか週二でやるって結構お店やるに近いんですけど。もうちょっと多くの人がやりたいことやったりとかできたらいいなと思って。ことカフェはもっとゆるくしたんです。ことカフェの場合は、カフェの人もいれば、占いの人もいれば、この間来た人は結婚相談所の人も来て。いろいろ来るのが面白い。」
家のような空間
訪れる人々がちょっとほっと一息できる場所を提供し、お店に来ればまるで家に帰ってきたような温かい空間に包まれる。「ていねいに、」の雰囲気づくりには、福田さんのこだわりが詰まった内装も大事な役割を果たしている。
「店内もちょっとお店っぽくなくて。一応、テーマは『実家』とか『おばあちゃん家』みたいなイメージ作ったんですよ。もともとこの前は普通のお店だったんで、僕が大工さんにお願いして、こういう畳にしてくれとか、こたつを作りたいとか。あと、カウンターって普通は靴じゃないですか、でも靴を脱いでほしいなと思ったんで、わざと脱いでもらう形にしたんですね。靴脱いだ方が僕としてはちょっとリラックスと思ったので、わざとカウンターなのに靴脱いで、スリッパに履き替える。」
福田さんのいちばんのお気に入りの場所は、こたつだ。
「ここで楽しくご飯食べてもらうのが一番いいですね。最近子供だとこたつ見たことない子もいて。こたつ家になかったっていうことが多いんで、おばあちゃん家とか言われちゃうけど。こたつ落ち着きますよね。」
「座敷席ってやっぱ子連れのかたは来やすいみたいでね。ちっちゃい子供がいると、椅子に座らせるのも大変じゃないですか。結構この辺に子供が転がっていますよよく(笑)。こたつを初めて見たみたいなことはよく言われる(笑)。」
食を提供するメンバーそれぞれのお店は常連さんがいる。オープンキッチンの空間で自由に会話が交わされる。
「普通カウンターって、上からいろいろぶら下がっているじゃないですか。あれをわざとなくしているんですね。普通は隠すんです。中を見られたくないから(笑)。だから多分料理作る人にとっては嫌だと思うんですけど、僕はそういう風に作っちゃったんで...。あと、カウンターに座った時と、ご飯作る人の視線が同じになるようにして。だから、カウンターの人はご飯の人とかと、みんなで喋れるように作ってるんです。ここは結構、一人で来た人同士とか、プラスうちのスタッフ含めてしゃべってますよ。」
不動産事業
当初は「食べる」「安らぐ」の二つの事業を運営した「ていねいに、」だが、現在は「住む」として西荻窪地域に限定して不動産事業も展開している。どのような経緯で始めることになったのか、尋ねた。
「最初はセラピールームと食堂で、名前も『食とセラピーていねいに、』って言ったんですよ。二、三年やってるうちかな。西荻出身で西荻でお店やってると、西荻のこと詳しいんじゃないかと思われるんですね。確かに普通の人よりは詳しいと思うんですけど。西荻って結構住みたい街なんですよ、吉祥寺ほどじゃないけど。だから一緒に西荻の町をちょっと案内してくれ、みたいなことをよく言われたり。西荻の町ってどうなんだ?みたいなことを友達に教えてくれないかみたいなことを言われたんで。」
そこで、月に一回「西荻ニクラスツアー」を始めた。このツアーでは、西荻窪に住むことに興味がある人を対象に、西荻がどんな地域なのかを歩きながら福田さんが参加者に案内し、物件を回っていく。通常、不動産を探すときは不動産業者と車で移動しながら物件を見て回るため、どうしても地域のことをよく知ることは難しい。しかし、地域を自分の足で歩き、土地について学びながら物件を回ることで、実際に自分が住んだ時のイメージが湧きやすくなる。しかし、不動産業を行うには宅地建物取引業の免許が必要で、当時の福田さんはそれを持っていなかった。案内した物件に住みたい人を最後まで案内できるようにと、宅建士の資格と宅建業の免許を取得し、現在は「ていねいに不動産」として不動産業を行っている。最近でも、カフェを開業したい人に「ていねいに、」から数分離れた好立地に物件を紹介したそうだ。
現在、自分のお店やレストランを開きたい人にとってのいちばんの障壁は、おそらく年々高騰する家賃だろう。大半の人が月に十万から十五万円くらいで探す場合が多いそうだが、その価格で西荻窪にて好立地の場所を見つけるのは今では難しいそとのことだ。
「うちに来る人は結構個人の方なので、その人たちの希望する家賃の物件ってあんまり…ほとんどないですね。駅からの距離とかによって違いますけど、やっぱり二十万とか。十五万だと、やっぱりちょっと駅から離れちゃったりとか、二階とか。ちょっと道に入ったとことか。難しい。昔は十万、十五万ありましたよ。もっと安かった。僕が探してた頃はもっと安かったですね。」
これは西荻窪で長い間ビジネスを行っている人たちによくある傾向だと、福田さんは説明する。
西荻窪でビジネスを始めるということ
「ていねいに、」にて、シェアスペースを利用していた何組かの飲食店は実際にその後自身のお店を独立し、開業している。コロナ以前は、個人事業を始めたい人に対してのコンサルティングを福田さんが行っていたそうだ。これは「ていねいに、」の四つの事業のうちの、「学ぶ」の一部である。
「元々不動産をやる前から、『小さなお店の始め方ゼミ』っていうのをやってて。ちょっとコロナなってからやってないんですけど。お店をやりたい人に数人集まってもらって、僕の方でちょっと話をするのと、その人に計画を話してもらって、それをみんなで話し合うという。コンセプトがちょっとはっきりしないね、とか、収支ちょっと考えたほうがいいよ、とか。実はあの方(取材時お店にいた『おんしん』の女性)はその卒業生でして。一回西荻でお店やったんですけど、コロナだったんで一回縮小したいってことで、うちに入ってもらったっていう。」
成功するビジネスに答えはないのかも知れないが、西荻窪でお店をするにあたっての大事な要因についていくつか話し合った。
まず、カフェ経営に挑戦したい人は大勢いるだろう。しかし経営面を考えると、難しいものがあるようだ。
「コーヒーって五、六百円じゃないですか。飲み屋さんだと何杯も頼むじゃないですか。コーヒーってそんなね、二杯は飲むかもしれないけど、3杯も四杯も飲まないですもんね。お菓子もね、ケーキも五百円とか千円とかで。飲み屋さんだとね、二時間いたら一人四千円とか五千円とかいったりしますからね。単価が全然違いますね。西荻、今飲み屋さんばっかりですよね。」
「僕はそういう人(カフェを経営したい人)を応援したいんですけど、難しいよっていうのを言って。カフェでコーヒーとケーキをオーダーしたとして、今、千二百円ぐらいかな、それで1日、何人やると売上がいくらだからみたいな話をすると、まあなかなか難しいねっていう...。」
次に、いちばん大事なことは常連客を確保することだそう。
「結局西荻って地元の人が多いんで、やっぱ常連さんを大事にすることじゃないですかね。何度も来てもらうとか。チェーン店との違いって結局、(個人のお店は)お店の方に会いに来るみたいなとこもあるじゃないですか。あの人が作ってるから来るってことですもんね。」
さらに高級住宅街のエリアも存在する西荻のことも考えると、そういった層の需要に応えることも大事なようだ。
「やっぱり西荻の人って全般的にはそれなりにお金も持ってる人も多いので。健康とか、自然食とかこだわってるといいのかなっていう気がしますけどね。まあ西荻でそもそもお店やりたい人はそういう人多いですよね。Palms (Palms Park Coffee)さんもね。無農薬の珈琲豆を使ったりとかしてるし。」
その他にも女性の住む街として人気がある、ということも考慮すべきことの一つだと教えてくれた。
アプローチするお客さんを理解することは大事だ。しかし、お店自体がいちばん考えるべきことは何よりもコンセプトだと福田さんは言う。
「一番大事なのはやっぱコンセプト。何をしたいのかっていうところですね。そこを考えないと、やっていくうちに、どんどんブレていっちゃう。一番大事にしたいところさえ決めれば、細かいところはどんどん変えていけばいいと思うんですけど。」
「みんなコンセプト自体はだいたい持ってますよね。でも、それをもうちょっとはっきりさせたりとかっていうのは、ちょっとお手伝いするかもしれないですね。やっぱりそのコンセプトは本人次第だから、僕が決めるわけにはいかないので。」
「あとは、お店やりたいって人はお金のことが苦手な人が多いので、そこはちょっとフォローしてあげることが多いですかね。収支計画とか考えないとダメだよっていう。なんとなくこう、やりたいやりたいみたいな、前のめりの人が結構多いんで。それをちょっと止めながら。(笑)」
お店の開業においてローンを組むことは多々あるかと思うが、それに対しての福田さんの考えを尋ねた。
「開業支援を受ける人もいますよ。個人的にはローンしちゃうと、自分の実力以上なことをやらないとなかなか大変なので、もし自己資金できるなら自己資金の方がいいと思うんですけど。ただね、今なくて貯めなきゃいけなくなると、その時間もったいないので。五年間頑張って貯めるんだったら、始めちゃってその後から返していった方がいいのかもな、と思いますけどね。でも、あるんだったら借りない方がいいし。あと貸してくれるのもある程度自己資金がないと貸してくれないんですよ。自己資金多少貯めれるぐらいじゃないと、返せないっていう判断されちゃって。お金一円も持ってないですって言った時、銀行からするとあんまり信用できないじゃないですか。五百万借りたいなら、せめて二、三百万は持ってないと。」
ビジネスを始めるにあたって、家賃の大きな壁の他にも経済面で考慮すべきことはたくさんある。
「主に内装費ですよね。やっぱり飲食はお金かかります。飲食店は何百万かかりますよね、安くても。コーヒーの焙煎機なんかも車買えるぐらいって言いますよね。まあだいたい開業費でお金借りますよね、借りる人は。」
福田さんは飲食店の運営における費用面の詳細について教えてくれた。
「飲食店の場合、一般的には食材は30%っていうんですよね。家賃は10%。三日分の売り上げっていうんです、大体。残り60%は例えば人を雇ってたら人件費。あとは水道光熱費とか。あとは雑費ですかね。プラス個人事業の場合って、利益が自分の収入になるんですよ。それも人件費として考えれば。」
最後に、西荻でいくつかのビジネスが閉業に至る背景について尋ねると、福田さんの答えには、人生やビジネスに対する彼の全体的な考えが反映されていた。
「でも意外と西荻ってそんなに失敗してないと思うんですけど、だいたい閉める店は体調不良かな?体調不良多いですよ。やっぱりお店やると、自分が動けないともう終わりなんで。だからゼミとかでも言うのは、自分の健康を一番大事にして、と。それ多いパターンですよ。西荻に限らずですけど、特に飲食業の場合、やっぱり労働時間が長い。あと個人事業ってね、明日どうなるかわかんないから、ちょっと心理的なプレッシャーもあるんでしょうね。もちろんお金の面もあると思うんですけど、健康面とか、精神的なプレッシャーが大きいのはあると思いますよね。みんな個人事業主だとやっぱそういう悩みはみんな言ってますね。生活していくのも結構大変なんで。」
西荻窪経済の縮図
中央線沿いの駅の中で、西荻は新しい小規模サービス事業、特に飲食業の実験スペースとして近年知られるようになっている。「暮らしのいろいろ ていねいに、」はこれらのプロセスの縮図である。ここでは、何人かの人々がシェアスペースを活用して独立に向けたビジネスアイデアや、商品を成長させている様子が見られ、またその他の人々はシェアリングエコノミーの中で自身の活動を長期的に続けていくことを選んでいる。
そして、異なる業種の小規模ビジネスがスペースを共有したり、顧客を共有したりすることで、相乗効果を生み出していることがわかった。起業家精神と社会的ビジネスの境界線が非常に薄いことも明らかになった。西荻の小規模ビジネスは、大きな利益を上げることを目的としていないことが多い。むしろ、オーナー自身やお客の生活を改善することを目指しているように思える。西荻はまた、競争の激しい市場経済の中で、より良い生活を提案する温床でもある。(ファーラー・ジェームス、下岡凪子 1月5日2025年)